忘れもしない2015年の11月13日、私は心を躍らせながらエールフランスの深夜便に搭乗していました。
シャルルドゴール空港に到着した直後、パリ市内と郊外で、大規模な同時多発テロが発生、100人以上の死者が出ているということを知り愕然。
今回は、その時の話を思い出して書こうと思います。
早朝4時すぎ、シャルルドゴール空港に到着
早朝。まだ日も登らない暗闇の中、搭乗していた羽田発のエールフランスがシャルルドゴール空港に着陸。
機内で携帯電話の電源を入れても良いというアナウンスが流れ、スマートフォンの電源をオン。
現地キャリアのネット回線に接続。
するとFacebookやLINEで、家族や友人からのメッセージが大量に舞い込んでいました。
「心配しています」「大丈夫ですか!?」「パリがえらいことになってる」などなど…
どうやらフライト中に起こった事件のようで、寝耳に水。
スマホでヤフーニュースのサイトを見てみると、パリで同時多発テロが発生し100人以上が亡くなっていることを知り、愕然。
まだ降機中で、入国すらしていないのに、既にショックに打ちひしがれていた私と友人。
思考が停止していましたが、引き返せるはずもなく、ボーッとする頭でイミグレへ向かい、入国。
とりあえず宿に向かうことにした
この時に宿泊を予定していたのは、日本人経営のアパルトマン。
チェックインは午前7時頃の約束。
早く着いてしまっても困るから、空港内のベンチでしばらく座って、2人でどうしようかと思案。
本当ならウキウキしているはずなのに、不安から暗く沈んだ表情で、時間が経つのを待っていました。
引き返すと言っても、航空券はFIXチケットだから日程変更はできないし。
深夜便の疲れもあって、とにかく宿で一服したい。考えるのはそれから…
アパルトマンのオーナーに電話をしてみたら、少し早めのチェックインでもいいですよ、とのこと。
外の暗さで余計に不安が増してくるし、すごく有り難かった。
6時ジャストに、空港のタクシー乗り場からタクシーに乗車、パリ市内へ向かいました。
環状道路の道中、事件現場スタッド・ド・フランスの横を通過
パリ市を取り囲む環状道路で市内に向かう途中、治安の良くないサン=ドニにある事件現場のスタジアム「スタッド・ド・フランス」の横を走る。
スタジアムは照明がついてい炊けど、外側から見ている限り物々しさは全くない。
本当に100人以上が亡くなるような恐ろしいことが起きたのかと、信じられない思いでした。
夜明け前の環状道路はとても空いていて、空港を出てから40分ほどで、16区の宿に到着。
アパルトマンでようやくひと息つく
アパルトマンの建物は16区、パッシー地区にありました。
オーナーから30分ほど遅れると電話があり、アパルトマンの中庭で待つことに。
待っている間、アパルトマンに住んでいるらしきパリジャンがバゲットを買って戻ってきたので、軽く挨拶。
30分後、アパルトマンのオーナーがやってきて、部屋に案内される。
部屋の設備の使い方を一通り説明してもらい、毛布を受け取ったりしてチェックインが終わると、とりあえずホッとした。
アパルトマンのオーナーさんのアドバイス
テロ事件の余波が心配で、今どういう状況なんでしょう…行動する上で注意すべきことは…?などと戸惑いながら聞くと、
テロ直後は超警戒モードに入っているから「多分何も起こらないと思う」と。
でも「かもしれない」というだけで、街中に出て何が起こっても自己責任です。
あと、2つのことをアドバイスしてくれました。
①デモや集会には近寄らないこと
デモや集会など、人が多く集まる所には近寄らないように注意されました。
理由は、人が多く集まる場所を狙った事件に巻き込まれる可能性があること。
また、デモや集会は暴動に発展する恐れもあるから。
そういう場面をに出くわしたら、すぐに立ち去ること。
②いつも通り、スリに気をつけること
特にスマートフォンは狙われやすいから気をつけた方がいいですよ、と言われる。
とにかく、何が起きても財布やパスポートなどの貴重品の管理はしっかりと。
という基本中の基本の話をされ、少し拍子抜けするも、おかげで少し冷静さを取り戻した気がしました。
非常事態宣言下のパリの様子
テロ事件直後、非常事態宣言が発令されている中、朝食を買いに近所のフランプリ(スーパーマーケット)やブーランジェリーへ。
パリ市内では日常生活が静かに繰り広げられていました。
スーパーやデパート、個人商店はほとんどが開いていて、食料品からお土産まで、買い物には困ることはありませんでした。
ルーブル美術館などの主要観光地は、自動小銃を携行した軍人が警備にあたり、物々しい雰囲気に。
オペラ座界隈など、パリの中心部は観光客の方が多い印象でした。
現地人は外出を控えていたのでしょう。
メトロも結構空いていて、スリらしき人物は全く見かけませんでした。
主要な観光名所は閉鎖される
昼過ぎに、恐る恐る街中に出てみました。
街を歩く人はまばらでしたが、カフェや商店は通常営業。
でもテロ事件直後、ルーブル美術館やオルセー美術館、グランパレ、プチパレ、オペラガルニエ、凱旋門(屋上への入場)、エッフェル塔(最上階)など、パリを代表する観光地は軒並み閉鎖されてしまいました。
理由は、多くの人が集まり、テロのターゲットになりかねないから。
エッフェル塔の最上階までの入場券をネットで事前購入していましたが、最上階には登ることができず。
登れたのは第二階層まで。
ネットで購入したチケットは、変更や払い戻しが効きませんでした。
ネットで事前にチケットを購入していると、こういうこともあるから、事前購入もほどほどにしておいた方がいいなと思いました。
LAVINIAで接客してくれた店員さんが突然涙にくれる
11月14日。
ワイン好きの父にワインを送るため、オペラ座近くのワインショップ「LAVINIA」へ。
パリのヤマトと提携していて、日本語ができる店員さんもいるというので足を運んでみました。
店に入って挨拶し、日本語スタッフをお願いしたところ「日本語がちょっとだけできる」お兄さんが出てきてくれました。
予算100ユーロぐらいで、白ワインを5本ぐらい日本に送りたいと伝え、選んでもらっている途中、他の店員さんがやってきて、なにやらお兄さんに耳うちする。
他の店員さんが立ち去った後、接客を続けようとするも、お兄さんが急に黙り込んで、顔を腕で覆った。
すすり泣きを始めたので驚くも、昨日の今日だから、もしかすると大切な人に何か不幸なことがあったのかもしれない、と。
何もしてあげられないし、かける言葉もないけど、パリッとしたシャツが涙で濡れている。
「これ、使ってください。」とハンカチを差し出すと、泣きながら「大丈夫…日本人やさしい…」
人の心は一応持っているつもりだけど、私はそんなに優しくない。
でも…きっと辛かったに違いない。
慌てないし、また改めて出直すと伝えると「大切なお客様だから最後までやります」と涙をふき、気丈に振る舞うお兄さん。
配送の手続きと清算を済ませ、別れ際、お兄さんに「ありがとう、気をつけて」と言うと、
「あなたも。」とお兄さん。
今でも思い出すと、胸が詰まる思い出。
日本メディアの取材を断る
ルーブル美術館のイオ・ミン・ペイのガラスのピラミッドあたりで腰掛けていると、カメラクルーとリポーターのグループが近づいてきた。
マイクを持った男性が「日本人の方ですか?」と話しかけてくる。
咄嗟に「すみません、ダメです」と拒否。
残念そうな表情で「あ、、そうですか…。」
もし取材を受けたら、全国ネットで「こんな非常時にパリにいるバカ」扱いされるに決まってるじゃないですか。
誰が好き好んで取材を受けるんだと思いながら、その場を離れました。
エッフェル塔がトリコロールカラーにライトアップ
この時の旅でも、エッフェル塔が宝石のようにきらめく「シャンパンフラッシュ」を楽しみにしていました。
シャンパンフラッシュは、午後9時から深夜の1時までの毎時5分間。
シャンパンフラッシュを見ようと、メトロのエコールミリテール駅からエッフェル塔に向かうと、なんだかいつもと様子が違う。
エッフェル塔の正面にまわって見上げると、何とトリコロールカラーのライトアップに。
正面にはパリ市の標語「Fluctuat nec mergitur(フルクトゥアト・ネク・メルギトゥル)」の文字と、パリ市の帆船の紋章が投影されていました。
「Fluctuat nec mergitur」はラテン語表記で、「たゆたえども沈まず」という意味。
テロ事件を受けたパリの誇りやプライドを目の当たりにし、色々な思いが心に押し寄せてきました。
シャンパンフラッシュは見られなかったけど、貴重な瞬間に立ち会った、感動とも何とも言えない複雑な気持ち。
こちらは、シャイヨー宮から見たエッフェル塔。
シャイヨー宮には、テロ直後にも関わらず、エッフェル塔を眺める観光客でいっぱい。
この後、付近のカフェでショコラを飲み、メトロで宿に戻りました。
観光名所ばかり行く旅だと辛かったかも
パリ観光を有名どころばかりにしてしまうと、何らかの理由で観光施設が閉鎖されたら、やることがなくなってしまいます。
他の国に関しても、同じことが言えます。
私は現地人と同じことをしてみるのが好きで、メトロやバスに乗ったり、そこらへんのカフェに入ったりするのが好き。
宿の周辺で地元の人たちと同じようにバゲットや肉、チーズ、スイーツを買って食べるだけでも楽しめます。
これは全部、初日の朝に近所で買ってきたもの。
バゲットにチーズ、焼きたてのチキン、ワインにりんご。
地元の人が訪れる小さな教会も穴場です。
普通の教会はこぢんまりとしていて、入場無料。
静かに場の空気や建物を楽しむことができます。
写真を撮るが好きなので、素敵な看板やストリートアートに目を奪われたり。
有名どころを訪ねなくても楽しめる旅のスタイルを持っていて、本当に良かったなと思います。
日本と現地の温度差に戸惑った
パリの宿で日本メディアのニュースを見ていると、過剰に恐怖を煽っている印象が強く受けました。
例えば、テロ直後に帰国した日本人ツアー客が泣いている映像や、現地の事件発生時の物々しい映像。
日本メディアのトーンに影響され、電話口で興奮する家族や会社の人たちとの温度差に戸惑いました。
パリにいた私達はというと、フランス人がつとめて平常通りに過ごそうとする冷静さを目の当たりにして、ここまで来たらもう仕方がない、と半ば諦めの境地に達していました。
とにかく最新の注意を払いながら過ごそうと。
当時は、本家族や会社の同僚、上司には本当に心配をかけました。
滞在中、スマホはサイレントモードに設定した
もし万が一テロ事件に遭遇してしまった時。
スマホの着信音やバイブレーションが鳴ると、隠れていても見つかってしまうかもしれません。
念のためスマホはサイレントモードに設定し、通知音など一切鳴らないようにしておきました。
海外旅行に行く時は「たびレジ」登録と海外旅行保険に加入する
外務省の海外安全情報配信サービス「たびレジ」に登録しておくと、滞在先でテロ事件のような重大な事件が起きた時、現地情報を日本語で随時受け取ることができます。
大規模な事件・事故、テロ、自然災害等緊急事態が発生した場合、被害の状況によっては、現地の大使館・総領事館から、緊急連絡のメールが届き、安否の確認や必要な支援などを受けることができます。
出典元:FAQ(よくあるご質問) https://www.ezairyu.mofa.go.jp/tabireg/faq.html
私は毎回、たびレジに登録してから旅行に出かけています。
それから、不測の事態に備えて、海外旅行保険にも必ず加入しておくこと。
私が毎回加入している東京海上日動の海外旅行保険には、「テロを補償する特約」がついています。
テロ行為(政治的、社会的、宗教的もしくは思想的な主義もしくは主張を有する団体もしくは個人またはこれと連帯するものがその主義または主張に関して行う暴力的行動をいいます。)を原因とする損害については、海外旅行保険の全契約に「テロを補償する特約(戦争危険等免責に関する一部修正特約)」が自動的にセット(割増保険料は不要)されていますので、保険金お支払いの対象となります。
出典元:東京海上日動(よくあるご質問) https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/inquiry/faq/overseas/faq_09014.html
2015年のフランス旅行は一生忘れられない思い出のひとつに
もう5年も経っているのに、到着直後の絶望感は未だに忘れられません。
「よりによって、なんで今なの」と、タイミングの悪さを呪いました。
滞在中はそれなりに楽しめたし、モンサンミッシェルの現地発着ツアーも奇跡的に催行され、田舎を楽しむこともできました。
運よく危険な目にあうことなく帰国でき、今では海外での貴重な経験のひとつになっています。
海外に行くということは、常に不測の事態と隣り合わせなのだということを、改めて思い知らされた旅でもありました。
こんなことを経験すると、争いのない平和な世の中を願ってやみません。
そして5年後はコロナウイルスが世界中で流行し、海外旅行どころではなくなっています。
1日も早く収束してくれることを祈るばかりです。